仕事柄、毎日のように売り物件を見ています。
二宮町はもちろん、大磯町、小田原市、
その周辺も含めて、「今、どんな物件が売りに出ているのかな」とチェックするのが日常です。
そんな中、先日ふと気になって、足柄上郡中井町の中古住宅を調べてみました。
そこで、ちょっと驚きました。
中古住宅が、4件しかない。
※掲載件数は検索サイトや時期によって変動します。
「え、中井町ってそんなに家が少なかったっけ?」
もちろん中井町は小さな町です。
でも、いくらなんでも少なすぎる気がする。
不動産屋として妙に気になってしまったので、少し調べてみることにしました。
二宮のすぐ隣にある「中井町」
中井町は、神奈川県西部にある人口約8,700人の町です。
二宮町から見ると北側。
車で走っていると、二宮から中井へ入った途端に景色が変わっていきます。
住宅地があったかと思えば、畑が広がり、その向こうには山がある。
町の約3分の1が山林、さらに約3割が農地です。
神奈川県というと、横浜や湘南のイメージが強いですが、
「神奈川県にも、まだこういう場所があるんだな」
と思わせてくれる町です。
町内には鉄道駅がありません。
これは住宅地として考えると、正直なところ弱点です。
一方で東名高速道路の秦野中井インターチェンジがある。
つまり、
電車には弱いけれど、車には強い町。
二宮町とは、暮らし方そのものが少し違います。
それにしても、中古住宅4件は少なくない?
人口が約8,700人ですから、そもそも大きな不動産市場ではありません。
それは分かります。
でも中古住宅が数件しかない。
「そもそも売る家がないのかな?」
と思って、中井町が行った空き家の実態調査を見てみました。
すると、さらに不思議になりました。
町が2024年度に行った調査では、調査対象となった220件のうち、134件が「使用実態がない可能性が高い物件」とされています。
しかも、中井町の空き家は戸建住宅の割合がかなり高い。
つまり、
家がないわけではないんです。
使われていない家もある。
それなのに、売り物件として市場にはほとんど出てこない。
これはどういうことなんだろう。
空き家=売り物件、ではない
ここからは、不動産屋としての私なりの考察です。
仕事で空き家の相談を受けていると、よく分かることがあります。
それは、
空き家だからといって、所有者が売ろうとしているわけではない
ということです。
例えば親が亡くなって実家を相続した。
自分は別の場所に住んでいるので、誰も住んでいない。
でも家の中には、親が使っていた家具も洋服も食器も残っている。
「そのうち片付けよう」
と思いながら、1年、2年、3年。
固定資産税は払っているけれど、とりあえず困ってはいない。
だから、そのまま。
こういうケースは珍しくありません。
「売れないだろう」と思っている人もいる
もう一つあると思います。
「こんな場所の古い家、どうせ売れないでしょう」
という思い込みです。
これは実際にあります。
築30年、40年。
駅から遠い。
庭は草だらけ。
室内には荷物がたくさん残っている。
所有者から見れば、
「こんな家に価値があるの?」
と思うのも無理はありません。
だから不動産屋にも相談しない。
相談しなければ、当然市場にも出てきません。
ところが面白いことに、中井町の空き家調査を見ると、所有者が回答した建物状態では、「そのまま住める」「軽微な修繕をすれば住める」という回答が90%を超えています。
ボロボロの廃屋ばかりが眠っているわけではないのです。
むしろ、
「まだ使える家が、使われないまま眠っている」
という方が実態に近いのかもしれません。
そして、売ってもいいと思っている人もいる
さらに興味深いのが、所有者の意向です。
中井町の調査では、今後の利活用について、
「売却・譲渡したい」
あるいは、
「条件が合えば売却・譲渡してもよい」
という回答が最も多くなっています。
ここが私は気になりました。
売る気がまったくないわけではない。
でも市場には出てこない。
おそらく、その間にあるのが、
「面倒」
なのではないでしょうか。
家財道具をどうするのか。
相続の手続きはどうするのか。
建物を直さないと売れないのか。
解体した方がいいのか。
いくらで売れるのか。
そもそも買う人がいるのか。
考え始めると、いろいろあります。
それなら、
「まあ、今すぐ困っているわけじゃないからいいか」
となってしまう。
こうして、家はあるのに市場には出てこない。
でも、中井町の家を欲しい人は本当にいないのか?
ここでもう一つ考えたいことがあります。
確かに中井町には駅がありません。
都内へ毎日電車通勤する人なら、二宮や大磯の方が便利でしょう。
でも、家を探している人全員が「駅徒歩10分」を求めているわけではありません。
最近は、
「庭が欲しい」
「隣の家と少し離れていた方がいい」
「犬と暮らしたい」
「家庭菜園をやりたい」
「古い家を自分たちで直したい」
「家にそんなにお金をかけたくない」
そんな人もいます。
そういう人から見ると、
駅がないことより、
土地が広い。
自然がある。
車を置ける。
価格が手頃。
ということの方が魅力になる場合があります。
実際、中井町の空き家調査では、駐車スペースがある物件が約8割。
2台以上停められる物件もかなりあります。
これは都会の中古住宅とは、まったく違う価値です。
「不便」と「豊かさ」は、人によって逆になる
これは二宮町で不動産の仕事をしていても感じることです。
駅から遠い。
スーパーまで歩けない。
庭が広い。
一般的な不動産評価では、マイナスになる条件があります。
でも人によっては、
駅を使わない。
買い物は車。
庭が広い方が嬉しい。
隣の家が近くない方がいい。
となる。
つまり、
ある人にとっての「不便」が、別の人にとっては「豊かさ」になる。
不動産は、ここが面白い。
中井町は「売れない町」なのか?
中古住宅が4件しかないのを見たとき、最初は単純に、
「中井町は不動産が動かないんだな」
と思いました。
でも、調べていくうちに少し考えが変わりました。
本当に「売れない町」なのだろうか。
もしかすると、
「売る家がない」のではなく、
「売れるかもしれない家が、まだ市場に出てきていない」
だけなのではないか。
空き家はある。
まだ使える家もある。
売ってもいいと思っている所有者もいる。
それなのに、中古住宅として流通している物件はほんのわずか。
だとしたら問題は、
「需要がない」
だけではないような気がします。
まだ値段のついていない家が、眠っている
もちろん、中井町なら何でも売れると言いたいわけではありません。
不動産ですから、道路付け、建物の状態、土地の形、法令上の制限など、一軒一軒条件は違います。
中には売却が難しい物件もあるでしょう。
でも、
「古いから売れない」
「田舎だから価値がない」
と決めてしまうのも違うと思います。
中古住宅が数件しか売りに出ていない町に、100件を超える「使用実態がない可能性が高い物件」がある。
この数字を見ていると、
なんだか宝探しのようにも思えてきます。
豪邸が眠っている、という意味ではありません。
誰かにとっては必要のなくなった普通の家が、
別の誰かにとっては、
「こういう家を探していた」
という一軒になるかもしれない。
不動産屋の仕事は、その二人をつなぐことでもあります。
中井町、ちょっと面白いかもしれない
海のある二宮町。
歴史と文化のある大磯町。
城下町の小田原。
それぞれに分かりやすい個性があります。
では、中井町は?
正直、これまで私はそこまで深く考えたことがありませんでした。
でも今回、中古住宅がたった数件しかないことをきっかけに調べてみて、少し印象が変わりました。
駅はない。
派手な観光地でもない。
でも、山があって、畑があって、土地にゆとりがあって、東名高速にもすぐ乗れる。
そして、その風景の中には、
まだ不動産市場に出てきていない家が、静かに眠っている。
中井町。
不動産屋として、ちょっと気になる町になりました。
これから少し、追いかけてみようと思います。

