そういえば、最近は電話をしていない
ふと気づいたことがあります。
ここ数年、売買物件を取り扱う大手不動産会社に、物件確認の電話をした記憶がほとんどありません。
昔はよく電話をしていました。
「この物件、まだありますか?」
「お客様をご案内しても大丈夫ですか?」
そんなやり取りをして、実際にお客様をご紹介し、契約に至ったこともあります。
ところが、いつの間にか電話をしなくなりました。
なぜか。
電話をしても、あまり意味がないと感じるようになったからです。
この20年ほどで、不動産業界の流通の仕組みは大きく変わりました。
今日は、その変化について少し書いてみたいと思います。
かつて、不動産会社は協力し合っていた
20年ほど前、不動産仲介の世界では、他社の物件を紹介することがごく普通に行われていました。
不動産会社が売主から売却を依頼され、レインズ(不動産流通標準情報システム)に物件を登録する。
それを見た別の不動産会社が、自社のお客様に物件を紹介する。
成約すれば、売主側と買主側、それぞれの不動産会社が仲介手数料を受け取る。
いわゆる「共同仲介」です。
もちろん、当時から競争はありましたし、囲い込みがまったくなかったわけではありません。
それでも、他社に物件を紹介してもらうことは、元付業者にとっても歓迎すべきことでした。
私自身、大手が専任媒介で預かっている中古住宅を、お客様に紹介して成約した経験があります。
競合でありながら、協力相手でもある。
そんな関係が、当たり前のように存在していました。
インターネットが、不動産流通を変えた
大きな転換点になったのは、インターネットの普及だったと思います。
かつて、お客様が物件を探すには、不動産会社を訪ねたり、住宅情報誌を見たりする必要がありました。
不動産会社も、自社だけで買主や借主を見つけられるとは限りません。
だからこそ、他社との情報共有に意味があったのです。
ところが、インターネットが普及し、SUUMOやアットホームなどのポータルサイトが一般的になりました。
お客様は不動産会社に足を運ばなくても、物件を探せるようになりました。
そして、広告に強い不動産会社が、多くの反響を獲得するようになりました。
ここで、不動産会社同士の関係に変化が生まれたのではないでしょうか。
他社に物件情報を公開すると、自社より広告の上手な会社が、お客様を集めてしまう。
それなら、他社に広告をさせず、自社だけで集客した方がよい。
そんな考え方が広がっていったように感じます。
物件情報を共有することが利益につながっていた時代から、物件情報を独占することが利益につながる時代へ。
インターネットは、消費者にとって物件探しを便利にしました。
その一方で、不動産会社同士の協業を難しくした側面もあると思うのです。
昔は「広告不可」が少なかった
現在、他社の物件を取り扱う際には「広告可」「広告不可」という条件を確認することが一般的です。
しかし、私の記憶では、20年ほど前には、そもそも「広告不可」という物件が少なかったです。
他社が広告してくれれば、それだけ多くのお客様に物件を知ってもらえる。
元付業者にとっても、悪い話ではなかったはずです。
ところが現在は、レインズに登録されていても広告不可という物件がほとんどです。
賃貸では、そもそもレインズに登録されていない物件も多くあります。
もちろん、広告不可でも、お客様を紹介して仲介できる物件はあります。また、売主や貸主の事情によって広告を制限することにも、正当な理由があります。
ただ、インターネットで物件を探すことが主流となった今、広告ができないということは、客付業者にとって大きな制約です。
情報を共有しているようで、実際には集客の機会が限られている。
私は、そこに現在の不動産流通の矛盾を感じています。
売買仲介における「囲い込み」という問題
売買仲介では、さらに気になることがあります。
専任媒介の物件を取り扱う大手不動産会社に確認すると、
「すでに話が入っています」
「現在、商談中です」
といった返答で、紹介できないことがあります。
もちろん、本当に商談が進んでいる場合もありますから、それだけで囲い込みだと決めつけることはできません。
しかし、売買仲介には、他社に買主を紹介してもらうより、自社で買主を見つけた方が収益が大きくなる仕組みがあります。
売主と買主の双方から仲介手数料を受け取る「両手仲介」です。
両手仲介そのものが悪いわけではありません。
問題なのは、両手仲介を優先するあまり、他社が連れてきた購入希望者を不当に排除することです。
売主にとって大切なのは、どの不動産会社が買主を見つけたかではなく、できるだけ良い条件で売却できることのはずです。
ところが、他社からの紹介を制限すれば、売主は購入希望者と出会う機会を失うかもしれません。
しかも、売主自身は、その機会損失に気づかない可能性があります。
これは業者間の競争というより、売主の利益をどう考えるかという問題だと思います。
電話をしなくなったことの意味
冒頭の話に戻ります。
昔は、大手不動産会社が預かっている物件でも、普通に問い合わせをしていました。
ところが、何度も紹介できないという経験を重ねるうちに、次第に問い合わせること自体が減っていきました。
そして、気づけば何年も電話をしていない。
これは私自身の経験にすぎませんが、業界の変化を象徴しているように感じます。
他社と協力して成約できるという期待が、薄れてしまったのです。
元付業者にとって、他社からの問い合わせが減ることは、必ずしも困ることではないかもしれません。
しかし、売主にとってはどうでしょうか。
本来なら購入希望者を紹介してくれたかもしれない不動産会社が、最初から問い合わせをしなくなっている。
そう考えると、目に見えないところで失われている取引機会もあるのではないでしょうか。
本来なら購入希望者を紹介してくれたかもしれない不動産会社が、最初から問い合わせをしなくなっている。
そう考えると、目に見えないところで失われている取引機会もあるのではないでしょうか。
専任物件を持たなければ、生き残れない時代
こうした変化は、不動産会社の経営にも大きな影響を与えています。
かつては、自社で物件を預かっていなくても、お客様を見つける力があれば商売が成立しました。
他社が預かっている物件を紹介し、成約につなげる。それも不動産仲介業の大切な仕事でした。
ところが現在は、そもそも他社の物件情報が十分に流通していなかったり、広告が制限されていたり、紹介そのものが難しかったりする。
お客様を見つけても、紹介できる物件がない。
そんな状況が生まれています。
つまり、お客様を集める力だけでは、商売が成立しにくくなったのです。
その結果、不動産会社は自社で物件を確保することに、ますます力を入れるようになりました。
売買であれば専任媒介契約を獲得すること。賃貸であれば貸主から直接募集を任せてもらうこと。
もちろん、専任物件がなければ絶対に経営できないわけではありません。
しかし、他社の物件を紹介するだけでは、安定した経営が難しい時代になったと感じています。
そして、ここにも一つの皮肉があります。
不動産会社同士が物件情報を共有しなくなった結果、それぞれの会社が自社で物件を確保しなければ生き残れなくなった。
かつては、協力することで商売が成立していた。
今は、自社で物件を持つことが競争力になっている。
これは単に営業手法が変わったという話ではありません。不動産仲介という仕事のあり方そのものが変わってきたのだと思います。
不動産流通は、誰のためにあるのか
不動産会社も営利企業ですから、利益を追求すること自体は当然です。
自社で集客し、自社で成約させたいと考えることも理解できます。
ただ、その利益追求が、売主や貸主、買主や借主の利益より優先されてしまうのであれば、本末転倒ではないでしょうか。
不動産流通の本来の目的は、不動産会社が情報を独占することではなく、売りたい人と買いたい人、貸したい人と借りたい人を適切につなぐことだと思います。
インターネットによって、不動産情報は以前よりはるかに多くの人に届くようになりました。
それなのに、不動産会社同士の情報共有や協力関係は、かえって難しくなっている。
便利になったはずの時代に、どこか不自由さを感じるのです。
私たちのような地域の不動産会社も、ただ昔を懐かしんでいるわけにはいきません。
自社で物件を預かる力をつけること。物件の魅力をきちんと伝えること。そして、他社とも誠実に取引すること。
競争することと、協力することは、決して矛盾しないはずです。
不動産会社のための不動産流通ではなく、お客様のための不動産流通であってほしい。
20年以上この仕事をしてきて、今、改めてそう思います。
